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貸し会議室大手のTKPがレンタルオフィス最大手のリージャスを約500億円で買収

貸し会議室大手「TKP」がレンタルオフィス大手「リージャス」を買収したことで業界内の勢力図も変化

貸し会議室大手の「TKP」レンタルオフィス最大手の「リージャス」を約500億円での買収発表を行いました。

※取得価額は日本リージャスの企業価値(約467億円)に純有利子負債などの調整を行った上で決定予定とのこと

働き方改革などの背景を受けて急速に拡大するレンタルオフィス・シェアオフィス市場ですが、TKPがリージャスを買収したことでその勢力図も大きく変わりそうです。

今回、TKPは、TKPの特別目的会社である「株式会社TKPSPV-9号」を通して、IWGの完全子会社である「Regus Group Limited」より「日本リージャスホールディング株式会社」の発行済み株式を全て取得するようです。

一部ではなく全てなので「完全子会社」することになります。

と同時に、TKPは日本リージャスが運営する日本全国140拠点超のシェアオフィス拠点を獲得することになります。言うならばTKPは一気に業界トップに躍り出たわけです。

リージャス買収でTKPが新たに獲得する「140拠点」のインパクトはどのぐらいのものなのか

ちなみに、TKPが新たに獲得した「140」という数がどれほどのインパクトかというと、日本においては群を抜いています。

競合他社と比較してみましょう。

・ソフトバンクが出資し話題の「WeWork」が20拠点程
・リージャスと比較される事も多い外資系の「サーブコープ」が25拠点程
・同じく外資系の「エグゼクティブセンター」が5拠点

国内勢の大手不動産だと、

「Work Styling」を展開する三井不動産が40拠点弱程
「ビジネスエアポート」を展開する東急不動産が8拠点
「ビズスマート」を展開する積水ハウスグループの積和不動産が5拠点
「エキスパートオフィス」を展開する東京建物100%子会社エキスパートオフィス株式会社が11拠点

同じく国内勢で、レンタルオフィス専業の老舗だと、

「nex(旧アセットデザイン)」50拠点超
「ビズサークル」を展開するWOOCが90拠点弱

となっています。

こうしてみると、140拠点という数が如何に圧倒的かという事が分かるかと思います。

<リージャスの最新オフィス一覧の詳細はこちら

リージャス買収を受けて株式市場もTKPを評価。TKPの株価は大きく上昇

貸し会議室とレンタルオフィスは親和性も高いことから、株式市場もTKPの今回の発表を評価しているようです。

2019/4/15に今回の発表をし、翌日4/16には前日比で17%超の上昇(12:30時点)、年初来高値を更新しています。

シェアオフィス市場におけるリージャスのポジションは?

さて、TKPが買収したリージャスですが、競合ひしめくシェアオフィス市場においてどのようなポジションを取っているのでしょうか?

一口にシェアオフィスといっても、各社コンセプトが異なるので、当然ターゲット、価格帯も様々です。なので一概に比較はできませんが業界内でのリージャスのポジションはというと「高級路線・高価格帯」です。

駅近一等地のハイグレードビルにハイスペックな設備・仕様、ソフト面においてもバイリンガルの有人受付に本格的な珈琲マシンの導入など。

価格も当然高くなりますから、起業間もない若い起業家が入居するというよりも、小規模ながらも安定した業績を上げていて資金に余裕がある会社、中小~大企業の支店・サテライトオフィス利用が中心ということになります。

「高級路線・高価格帯」というポジションはWeWorkも同様かと思いますが、リージャスに比べるとWeWorkはもっとオープンで、(またそれを強く打ち出していることもあり)人との繋がりを重視する人がWeWorkを選んでいる印象があります。

ちなみに日本リージャスは既に述べたハイグレード仕様の「リージャス」というオフィスブランド以外にも、有人受付無しで価格を抑えた「オープンオフィス」、人との繋がりを重視した「Spaces」も展開しています。

「Spaces」は大手町(SPACES大手町ビル)、名古屋(SPACES JPタワー名古屋)、福岡(SPACES博多駅前)で展開しており、拠点数はまだ少ないですが非常の好調のようです。

人との繋がりを重視するという点においては、WeWorkとSpacesは同様のポジションを取っているかと思います。

「雨後の筍」状態のシェアオフィス市場。異業種・事業会社からも続々参入

私もシェアオフィス特化の当ブログ運営を通して日本全国200以上のシェアオフィスに実際に足を運び、様々なコンセプトのオフィスを見て来ました。

そして感じるのは、ここ数年でかなり増えた異業種・事業会社の参入です。

例えば、

・ヤフーの「LODGE(ロッジ)」
・amazonの「AWS Loft Tokyo」
・不動産ポータルHOME'Sを運営するLIFULLの「LIFULL HUB(ライフルハブ)」
・菓子メーカー森永製菓の「MORINAGA Village(森永ヴィレッジ)」
・メガネメーカーJINSの「Think Lab(シンクラボ)」
・JR東日本の「STATION WORK(ステーションワーク)

などなど。

資本力のある大手はシェアオフィス事業による収益を得るというよりも、既存事業とのシナジーを目的に展開しているケースもあり(ヤフーやamazonなど)、各社本当に入り乱れている印象です。

大企業の場合は、スタートアップを取り込みたいという思惑もあるかと思います。

大企業×スタートアップ

変化の激しい今の時代にあって大企業もスタートアップとのコミュニケーションを取っておきたい、という気持ちもあるため出資、業務提携なども視野に入れたシェアオフィス運営というもの増えてきています。

また事業会社のシェアオフィス運営の場合は、自社社員のサテライトオフィスとしても活用できますから、自社オフィスの一部をコワーキングスペースにし、(自分達も使うけれども)外部にも貸し出すというケースもあります。

「せっかくなのでオフィスの一部をコワーキングスペースにしてみようか」

「自社オフィスの一部をコワーキングスペースとして外部に出しだす」

このケースは大企業だけではなくベンチャー企業でも見られます。IT系やクリエイティブ系の企業が多い印象です。

例えばこんな感じです。

「最近シェアオフィスやコワーキングスペースが人気だよね。せっかくなので次の移転先オフィスでは、スペースの一部をコワーキングスペースにして外部にも貸してみるのはどう!?入ってくるお金は賃料の一部に充てれるし、仕事も一緒にできると楽しいよね」

シェアオフィスがこれだけ浸透する前は独立間もないベンチャーが先輩の会社に間借りするケースもありましたが、よく考えると、対象が身内だけではなく広く一般になったという感じですね。

東京は物件探しが難航。物件確保においては不動産会社に分があるか

東京は空室率が低下、不動産価格も高騰しているため、そもそもシェアオフィスを作るための物件探しがかなり難しくなってきています。なので、地方での拠点OPENも増えてきています。

ただ、地方の状況はというと、シェアオフィス自体が根付いていないところも多いので、それはそれで吟味する必要があるかと思います。

地方自治体が地元でコワーキングスペースを展開するケースも増えていますが、軌道に乗せるまでにはなかなか至っていないところが多いようです。

シェアオフィス運営で最初に出てくる「物件確保」という点では三井不動産が僅か数年で一気に拠点数を増やしたことに代表されるように、ビルを多く保有する不動産会社に分があります

ということでシェアオフィス事業を展開している不動産会社は更に拠点を増やすでしょうし、まだ参入していない不動産会社は新たに参入することになるでしょう

シンガポールなどの東南アジアでは日本以上にサービスオフィスが浸透していますが、日本でも世の流れ的に(巨大な賃貸オフィス市場において)シェアオフィスの存在感が増すことは間違いなく、需要が伸びる以上、不動産各社もそこに手を出さないわけにはいかないはずです

最初は月額数万円~数十万円のシェアオフィスするかもしれませんが、入居企業の一部はいずれビジネスを軌道に乗せ、中規模~大型オフィスビルに移る企業も出てくるはずです。成長可能性の高いスタートアップを早い段階で取り込むことが出来れば、その後の一般オフィス賃貸への波及効果も出てくるでしょう。

ただ、そうは言っても複数の個人事業主、法人企業が集まるシェアオフィス運営は非常に手間がかかるものです。

シェアオフィス運営のオペレーション業務も、一朝一夕に身に着けられるわけではないので、先行して展開した会社が、他社に先駆けて逸早くノウハウを蓄積し、その後のマーケットをリードしていくでしょう。

そういう意味では日本においてトップクラスのノウハウを蓄積してるであろうリージャスを取り込めたTKPにはかなり優位性があるといえそうです。またTKPの場合は、既存の貸し会議室事業で大企業のクライアントを豊富に抱えており、フレキシブルオフィスへのニーズも高いでしょうし親和性抜群ですね。

フレキシブルオフィスでどうしても発生してくる出たり入ったりの「空き室期間」は会議室として貸し出せばよいわけですし。

今後のシェアオフィス市場は規模の経済が働く時代に。1拠点~数拠点で展開する事業者は差別化が増々肝に

さて、今後のシェアオフィス市場ですが、かなり二極化が進むと思います。

●高価格帯オフィスと低価格帯オフィス

●中小~大企業向けオフィスとフリーランス・個人事業主向けオフィス

●コミュニティーマネージャーを常駐させソフト面に重きをおくオフィスと、IoTなどを駆使しながら無人運営で効率よく展開するオフィス

そして、様々な組み合わせパターンがある中で、どの項目のどれを選択するかによって

●調子が良いオフィスと、そうでないオフィス

というのが出てくるはずです。

またマーケットが拡大する中で、規模の経済も働いてきます。既にリージャスはかなりのアドバンテージを持っていますが、会員であれば日本全国に広がるリージャスのラウンジを自由に使えるというサービスです。

取引先のアポの後に近くのリージャスで作業して、そのまま帰宅するなどといったことも可能になるかと思いますが、これは拠点数が多さが為せる技です。

このあたりは資本力の勝負でもあるので、今回、TKPがリージャスを買収したように、シェアオフィス業界におけるM&Aは更に加速していきそうです。

リージャス買収によりTKPは今後どういう展開を進めていく?

プレスリリースでは以下の記載がありました。

当社は日本リージャス社の株式取得による既存拠点の獲得と同時に IWGとの間で日本国内における長期間のパートナーシップを定め、当社が日本国内におけるIWG各ブランドの独占的運営権などを得る契約を締結いたしました。

これにより、IWGの日本における独占的パートナーとして、IWGのブランドポートフォリオ、グローバルネットワーク、海外セールスマーケティングチーム、インフラ及びバックオフィスのサポートを活用しつつ、サービス拠点の拡大が可能となります。

貸会議室とレンタルオフィスは補完関係にあり親和性が高いため、当社は以前より短期~中期のフレキシブルオフィス市場への本格的な進出を検討しておりました。この度の株式取得により、同市場への展開を加速し、更なる価値創造が実現できるとの見込みから、本件決議をいたしました。

なお、具体的なシナジーとしては、①共同出店及び当社既存施設の転換による拠点ネットワークの拡大、②両社のリソースを融合することによる顧客サービスの向上等をもたらすものと考えております。

TKPとリージャスの売上高ほか

最後にTKPとリージャスの売上高などの基本データです。

【TKP】
売上高:442億900万円(前期比18.8%増)
営業利益:60億200万円(同40.7%増)
純利益:32億7,500万円
※今回のタイミングで発表された2020年2月期の連結業績予想

【リージャス】
連結売上高:132億4,900万
連結純資産:137億9,600万
※2018年12月期

TKPは大塚家具の資本業務提携といい、かなり攻めてますね。

TKP代表の河野貴輝氏はもともと金融畑出身ということもあり、様々なスキームで今後も展開していきそうです。

当サイトでは日本全国のシェアオフィスを体験記として取り上げていますので、シェアオフィスを探している方は是非参考にして下さい。サイト上部の「エリア枠」からオフィスを探すことが可能です。

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オフィスサーチ.biz 編集部

日本全国、300以上のシェアオフィスに実際に足を運び、使い勝手などを体験したシェアオフィスマニアが記事を執筆/監修。趣味が高じて宅地建物取引士の資格も取得。当サイトではシェアオフィスの現地取材、詳細な体験レポート・徹底解説記事などでオフィス選びの一助となるコンテンツを発信します。

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